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東京地方裁判所 平成6年(ワ)19702号 判決 1998年4月24日

原告

信行寺

右代表者代表役員

浅野弘毅

右訴訟代理人弁護士

大澤公一

石戸谷豊

被告

北辰物産株式会社

右代表者代表取締役

中川克則

右訴訟代理人弁護士

竹内清

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金七億三四六万七七一三円及びこれに対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  紛争の概要

本件は、原告である宗教法人信行寺春秋宛ないし春秋宛の名義で被告を受託者としてされた商品先物取引(以下「本件原告名義取引」という)について、原告が自らを取引当事者であるとした上で、宗教法人である原告に営利目的の商品先物取引を行わせた点で被告の担当登録外務員に違法があり、右取引によって原告に約七億円余の損害を被らせたとして、被告に対し不法行為(使用者責任)に基づき右相当額の損害賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実等(証拠による場合は適宜掲記する)

1  当事者等

(一) 原告は、親鸞聖人を宗祖と仰ぎ浄土真宗の教義をひろめること、法要儀式を行うこと、僧侶、門徒その他の信者を教化育成すること、その他右目的を達成するための業務及び事業を行うこと、礼拝の施設その他の財産の維持管理を行うことを目的とする宗教法人である。

原告は、昭和三三年川崎市多摩区生田地内に公園墓地春秋苑を造営し、昭和六〇年には同地に従たる事務所(信行寺川崎院)を設置している。

原告の寺則によると、原告の事務は平等の議決権を有する三名の責任役員で構成される責任役員会の過半数により決せられるものとされており、また、三名の門徒総代は諮問機関として重要な事柄について意見を具申することとされていた(甲一四)。

(二)原告の代表役員には、平成三年一一月二八日までは浅野文彰(同日死亡。以下「文彰」という)が、その後同年一二月一三日からは同人の子で責任役員でもあった浅野弘毅(平成四年二月二九日名を毅から弘毅に変更。以下「弘毅」という)がそれぞれ就任していた。

文彰の相続人は、妻である浅野知恵子(以下「知恵子」という)と子である弘毅、市田優子及び北岡さつきの四名(以下「文彰相続人」という)である。

(三) 被告は、統制物を除く穀物、砂糖、ゴム、生糸、海産物、貴金属及び非鉄金属等の商品の取引市場における売買等を目的とする株式会社であり、商品取引所法の定める商品取引員でもある。

2  文彰と被告の間の取引の経緯

(一) 文彰は、被告の登録外務員徳満幸蔵(以下「徳満」という)から商品先物取引の勧誘を受け、平成元年三月一〇日、承諾書及び通知書(乙九の1)を被告に差し入れ、被告を受託者として自己名義で粗糖五〇〇枚を買い建て、商品先物取引(以下「本件文彰名義取引」という)を開始した。その後、文彰は、砂糖、農産物、貴金属などを次々に売買するようになった(乙三の1ないし19)。

(二) 文彰は、平成元年一一月二二日、当時原告の代表役員であったが原告の責任役員会の決議を経ることなく、原告名義の承諾書及び通知書(乙九の2。以下「本件原告承諾書」という)を被告に差し入れ、宗教法人信行寺春秋宛の名義を用いて被告を受託者として金二〇〇〇枚を買い建て、本件原告名義取引を開始し、以後、右名義ないし春秋宛なる名義を用いて多数の取引を継続した(乙二の1ないし12)。

(三) さらに、文彰は、平成二年一月二五日、知恵子名義で約諾書及び通知書(乙九の3)を被告に差し入れ、同年三月六日、知恵子名義を用いて粗糖一二〇〇枚を買い建て、以後同人名義で粗糖の先物取引を行った(乙四の1ないし9。以下「本件知恵子名義取引」といい、右(一)及び(二)記載の取引と併せて「本件各取引」という)。

3  文彰死亡後の状況

(一)(1) 文彰の死亡後、本件文彰及び原告名義各取引において未決済玉が残存したままとなっていたので、文彰相続人は、右各取引を終了させるべく平井義興(以下「平井」という)に被告と協議することをゆだね、平井と被告との協議の結果、平成四年三月一二日、右相続人と被告との間で原告を関与させることなく、本件各取引の清算に関して大要左記の内容の協定(乙一。以下「本件協定」という)が成立した。

ア 文彰相続人は、被告に対し、本件各取引の清算損債務が一四億七九三一万五〇五九円であることを確認する。

文彰相続人は、このうち一二億五二六六万七三二八円の支払義務のあることを認める。

被告は、残余の債務二億二六六四万七七三一円の支払を免除する。

イ 被告は、被告に預託されている本件各取引の委託証拠金(以下「証拠金」という)四億二一九二万四三二五円を右アの清算損債務の一部に充当する。

ウ 文彰相続人は、被告に差入済みの本件各取引の委託証拠金代用証券(以下「代用証券」という)を一括して一三億九〇六六万円で被告に売り渡し、右代金債務と右イによる充当後の清算損残債務八億三〇七四万三〇〇三円とを対当額で相殺する。

エ 被告は、右相殺後の代用証券売買残代金五億五九九一万六九九七円を文彰相続人に対し支払う。

(2) 右協定に基き、五億五九九一万六九九七円が宗教法人信行寺代表役員浅野文彰名義の三菱銀行麹町支店の普通預金口座(以下「本件口座」という)に振り込まれた(甲一一の4)。

これにより、文彰相続人と被告との間では本件各取引の決済はすべて終了した。

(二) 文彰相続人は、平成四年七月三〇日、代理人弁護士を通じて被告あてに左の内容が記載された通知書と題する書面(乙六。以下「本件通知書」という)を送付した。

(1) 本件協定は、平成元年三月一〇日から平成三年一一月二八日(文彰死亡時)までの本件各取引の清算を内容とするものである。

(2) 文彰相続人は、右各取引に文彰の意思に基づかない一任売買ないし無断売買が多数含まれ、被告には違法があることを知らないまま円満に本件各取引を終了させるべく、本件協定を締結したのであるから、右合意は錯誤ないし詐欺により効力を有しないものである。

(三) 被告は、同年八月三日、本件通知書への返答として文彰相続人代理人弁護士に対し、次の内容が記載された書面を送付した(乙七の1)。

(1) 本件協定は、平成四年二月二一日までの本件各取引のすべての清算を内容とするものである。

(2) 本件協定は、被告の責任に関する文彰相続人の主張を斟酌した上で、被告においても譲歩した上で合意に至ったものであるから、本件通知書に記載された本件協定の錯誤による無効あるいは被告の詐欺による取消しのいずれも理由がなく失当である。

(四) 文彰相続人は、平成五年三月四日、社団法人日本商品取引員協会(以下「日商協」という)に対し、紛議調停の申立てをした(乙八の1。以下「本件調停申立」という)。

右申立ての趣旨は、被告が文彰から預託を受けた証拠金及び代用証券の額から金五億五九九一万六九九七円を控除した額を文彰相続人に返還する旨の調停を求めるものであり、その理由の要旨は文彰が被告との間で行った本件各取引は無断売買又は一任売買等の取引があることに照らし公序良俗に反するものであること、本件協定は文彰相続人の錯誤に基づく合意であるから無効であること等を骨子とするものである。

(五) 文彰相続人は、平成五年四月二二日、社団法人全国商品取引所連合会(以下「商取連」という)東部地区合同紛争仲介委員会に対し、本件調停申立てと同一の趣旨及び理由で仲介申出(以下「本件仲介申出」という)をしたが、右委員会は、同年七月一四日、本件協定の錯誤無効の主張について判断するためには相当程度の事実認定と高度の法律判断を要するからその性質上右委員会による仲介を行うのは相当でないと判断して仲介を行わない旨の判断を行い、これを関係者に通知した(乙八の2)。

第三  当事者の主張

一  原告の主張

1  本件原告名義取引の委託者

(一) 商品取引員に商品先物取引を委託する者(以下「委託者」という)は、商品取引所の定める受託契約準則(以下「準則」という)に従って取引を行う等の内容が記載されている約諾書及び委託者ないしその代理人の住所氏名等を記載した通知書を商品取引員に交付することを要する(準則三、四条)。

右約諾書の作成交付は委託者と商品取引員との間の商品取引に係る基本契約としての意味を有するのであり、契約当事者の合理的かつ画一的確定という見地からすると、委託者は右約諾書に記載された者とすべきことは明らかであり、本件原告承諾書の存在に照らすと、本件原告名義取引の委託者は原告と解される。

さらに、日商協及び商取連が定める自主規制においても、委託者に本人以外の仮名又は他人名義を使用させることは不適正ないし禁止されるべき受託行為として規定されていることを考慮すれば、約諾書に記載された者が委託者であると解することは当然で、被告は本件原告承諾書に記載された原告が委託者でないことにつき具体的な主張立証をすべきである。

(二) 文彰が証拠金及び代用証券として被告に預託した財産はすべて原告の所有に係るものである。本件原告名義取引は、原告の財産を用いて本件文彰名義取引をするという形態が不自然であることから、文彰と徳満が合意の上、開始したものである。

被告は、本件口座への送受金を繰り返しており、本件原告名義取引に係る資金の出捐者が原告であることを明確に認識していた。

(三) 被告は、文彰の死亡後も本件文彰及び原告名義各取引において、合計三四〇〇枚もの建玉を維持し、これを平成四年二月二一日まで決済しなかった。

仮に本件原告名義取引が文彰個人の取引であれば、同人の死亡により委任事務は終了するはずであるから、右事実は、被告が本件原告名義取引の主体が原告であることを認識していたことを明確に示すものであるといえる。

(四) 弘毅は、本件協定成立時には本件原告名義取引の取引主体について錯誤に陥っていた上、右協定は本件原告名義取引の主体である原告を関与させることなく成立したのであるから、効力を有しないものであり原告との関係では何の拘束力もない。

また、被告は、本件協定の内容について譲歩をしたと主張するが、右(三)のように文彰死亡後も取引を終了しないでいるうちに拡大した損害分を考慮したのにすぎないのであって、譲歩といえるものではない。

(五) 以上からすると、本件原告名義取引は、出捐者、名義人及び預入行為者のいずれもが原告という取引類型であるから、これを原告の取引とすべきことは明らかであり、右各事実を明確に認識していた被告において本件原告名義取引の当事者が文彰個人であったなどと主張することは許されないというべきである。

2  被告の責任原因

(一) 徳満は、文彰が原告に無断で原告名義の取引口座を設定し取引に必要な証拠金及び代用証券を原告の財産から持ち出して用意していたこと、商品先物取引が危険性が高く原告に損害を与えることが極めて高度であることを認識していながら、文彰に対し本件原告名義取引を勧誘しこれを受託し、この結果原告には後記3記載の損害が発生した。

右の徳満の行為は、登録外務員の勧誘及び受託行為として社会通念上許されないものといえ、徳満には右行為により原告に損害を与えた違法がある。

(二) 徳満は、被告の事業の執行として右行為を行ったものであるから、被告は原告に対し、民法七一五条一項に基づき不法行為責任を負う。

3  原告の損害

原告は、本件原告名義取引により、清算損金六億一七六三万八五〇〇円、手数料八二一〇万九〇〇〇円、消費税相当額二四三万三〇九五円、取引所税相当額一二八万七一一八円の合計七億三四六万七七一三円の損害を被った。

なお、原告は、本件協定に基づき、文彰が被告に預託した原告の所有に係る現金及び代用証券をもって右損害額の弁済に充当したので、原告には、同額の現実的損害が生じている。

4  よって、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償として金七億三四六万七七一三円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成六年一〇月二五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の主張

1  本件原告名義取引の委託者

(一) 原告が主張する準則等の業界における自主規制と本件原告名義取引の委託者の確定という私法上の問題は、領域を異にし、準則の規定によって名義上委託者であると目される者が直ちに私法上の取引主体であると解することはできない。

本件原告承諾書及び取引関係帳簿類には原告が委託者であるかのように記載されている部分があるが、本件原告名義取引につき原告の法人としての意思決定は存在せず、更に本件原告名義取引は原告の定款の目的の範囲外の行為であることからすれば、本件原告名義取引の結果が法人たる原告に帰属することはあり得ないのであり、本件原告名義取引の委託者は実際の行為者である文彰と解さざるを得ない。

(二) 委託者の決定は、委託者として行動した者が誰であったかという外見的側面から一義的に決定されるべきであり、取引資金の帰属者いかんという内部的な事情等は考慮されるべきではない。仮に取引資金の帰属者によって決定されるとしても、文彰が本件原告名義取引に投入した資金の調達方法は極めて錯綜していて、原告の財産だけが原資であると断定することは不可能である。

文彰は、本件文彰名義取引を行っていたところ、品目ごとに定められた建玉制限を潜脱するための目的で借名口座として本件原告名義取引を開始したのであり、右経緯及び本件知恵子名義取引の存在等をも考慮すると、同人に本件原告名義取引の効果を原告に帰属させるとの意思があったとは考えられず、同人は本件各取引の委託者として行動していたものである。

(三) 本件各取引は商行為であり、文彰が死亡したからといってその委託関係が当然消滅するものではなく、右委託関係は相続人へと承継される。被告は、本件原告名義取引の処理を協議すべく文彰相続人との接触を図ったが、弘毅の都合によりこれが順延し、右相続人の委任を受けた平井との間で、平成四年二月二一日、ようやく本件原告名義取引を終了させることができたのである。

なお、当然のことながら、本件原告名義取引に文彰死亡後の新規建玉は存在しないのであり、文彰相続人の意向を確認することもなく勝手に未決済玉を売り決済せよという原告の主張こそ暴論というべきである。

(四) 弘毅は、原告の代表役員就任後、本件原告名義取引が文彰個人の計算による取引であることを承認していた。また、文彰相続人は、本件協定、本件通知書、本件調停申立て及び本件仲介申出の一連の過程を通じて本件原告名義取引が文彰個人の計算による取引であることを承認し、これを前提として行動していた。

(五) 以上によれば、本件原告名義取引の効果が原告に帰属することはあり得ず、本件原告名義取引の主体は文彰個人であったというべきである。

2  被告の責任原因

(一) 商品取引においては、委託者の信用はもっぱらその差し出す証拠金の額によって決定され、そもそも委託者の資格及び個性は重要視されないのに加え、大量の取引を迅速かつ画一的に処理しなければならないという要請も無視できない。

右の点を考慮すれば、受託業者である被告には、顧客から差し出された証拠金又は代用証券が右顧客の正当な権利に属するものであるか否かを判定することは必要でなく、これを逐一調査確認してから預託を受ける注意義務は存在しないというべきである。

(二) 右のとおり、被告には文彰が被告に預託した証拠金及び代用証券の権利関係を調査すべき義務は存在しないのであるから、右証拠金等に原告の財産が含まれ、本件原告名義取引の清算により原告の右財産権が喪失するという事態が生じたとしても、原告の右損害について責任を負うものではない。

3  原告の損害

原告の損害に係る主張については争う。

第四  判断

一  本件原告名義取引の委託者について

1 現実の商品先物取引の委託者ないし主体が何人であるかの確定は、特段の事情のない限り、当該取引行為の関与当事者の合理的な意思解釈によって行うべきであるところ、本件原告名義取引について、文彰が自らを委託者ないし主体とする意思であったことは前記認定の取引経緯から明らかというべきである。

そこで、なお右取引が原告名義で行われたこと、右取引資金に原告の資産が流用されたこと等の事情が右取引の委託者ないし主体を原告とすべき特段の事情に当たるかについて検討する。

2  まず、本件原告名義取引の法的効果の帰属主体の点から検討する。

(一) 原告は、本件原告承諾書の差入れ、本件現金等の預託等本件原告名義取引に係る種々の行為(以下「本件行為」という)が当時原告の代表役員であった文彰によって原告名義で行われたことを指摘して、文彰による本件行為は法人の代表機関の行為として原告に効果を帰属させるものであるから、本件原告名義取引の主体たる委託者は原告であると主張する。

(二) しかし、本件原告名義取引に関して原告の代表決議機関である責任役員会の決議が事後的なものを含め存在しないことについては当事者間に争いがなく、前記認定の原告の宗教法人としての目的に照らすと本件原告名義取引がおよそ宗教法人である原告の目的の範囲外の行為であること、したがって文彰の行った本件行為が原告の代表役員の権限に属する業務執行行為といえないことはいずれも明らかというべきであるから、本件行為が原告の機関である文彰による代表行為として原告に右取引行為の法的効果の帰属を生じる余地はなく、実際の行為者である文彰に右効果が帰属するものといわなければならない。

3  次に、本件行為の実質的側面から検討を加える。

(一) 原告は前記文彰の地位及び本件原告名義取引の名義に加えて文彰が原告の財産を用いて右取引を行っていたこと等の点を挙げて、本件行為は原告の代表行為として原告への効果の帰属を生じるものと評価すべきであると主張するので、念のため右の点についても検討を加える。

(二)(1) まず、原告は準則等の規定の趣旨から名義人である原告が取引の主体と解すべきであると主張する。

しかし、右諸規定は名義人と真実の委託者を一致させようという趣旨に基づき業界の自主規制として定められたものであるから、右諸規定の存在のみをもって個別具体的な取引行為である本件原告名義取引の主体を判断することは相当でないというべきである。

なお、原告が宗教法人であり、右取引が明らかに原告の目的の範囲外の行為であることを考慮すると、かかる名義での取引を応諾した被告ないし被告担当者である徳満の対処には問題がないとはいえないが、右取引が文彰の個人取引であると判断される以上、右自体をもって直ちに右被告らの対処を違法とまでは認められない。

(2) 次に、原告は本件原告名義取引の資金はすべて原告の財産から出捐されたものであると主張する。

しかし、本件全記録を検討しても、本件原告名義取引に係る代用証券が原告の所有に帰するものであったことを認めるに足りる証拠は存在せず、原告の主張は理由を欠くものである。

なお、証拠(甲一の2ないし6、二の2、三の2ないし5、9ないし14、五の1ないし27、六の2ないし19、九の1ないし5、一〇、一一の1ないし4、一三、一四、乙二の1、2、10、三の1ないし5、9、10、五の1、6、一三の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、文彰が本件各取引に関して被告に差し入れた証拠金のうち多数が原告の財産に由来するものであったこと、右証拠金のための支出は原告の帳簿上貸付金、仮払金ないし差入保証金として処理されていたこと、文彰はほしいままに原告から右取引資金を調達したもので本件各取引を明確に区別する意思を有していなかったこと等の事実が認められるが、右はいずれも原告と文彰とのいわば内部関係の問題にとどまるものというべきところ、本件全証拠によっても、徳満において本件原告名義取引の資金の出所に不審を抱きこれを調査すべき特段の事情があったとは認められない。

(3) さらに、原告は、文彰死亡後の本件各取引の決済による終了が遅れたという点で被告を非難し、被告の右対応は本件原告名義取引の主体が原告であることによってのみ理解できると主張し、その一方で、本件原告名義取引が文彰の取引であったことを窺わせる本件協定の効力を否定する。

しかし、原告の右主張のうち原告の対応の遅れをいう部分については、これを認めるに足りる証拠はなく、また、前記認定の本件協定締結から本件仲介申出に至る一連の過程を考慮すれば、本件協定の効力を否定する事由は見い出せず、いずれも理由がなく失当である。

(三)  以上のとおり、本件行為の実質的側面からする原告の主張もいずれも理由がない。

4  結論

したがって、文彰の行った本件行為により原告が本件原告名義取引の主体たる委託者の地位を取得したとする原告の主張は失当というほかなく、右委託者の地位にあることを前提とする原告の本訴請求は理由がない。

二  よって、原告の本訴請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないからこれを棄却し、訴訟費用について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤村啓 裁判官岩渕正樹 裁判官髙橋光雄は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官藤村啓)

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